鳥取地方裁判所 昭和45年(ワ)147号 判決 1975年2月26日
原告
前田秀志
右訴訟代理人
藤原和男
被告
旭木材工業株式会社
右代表者
高田義久
右訴訟代理人
田中節治
主文
被告は原告に対し金六三万二四七七円及びこれに対する昭和四五年七月一一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを五分し、その四を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。
この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
一原告主張の日時・場所で、訴外林車と本件被告車が衝突し、訴外林車に乗車していた原告が傷害を受けたこと、被告が右被告車の保有者であること、はいずれも当事者間に争いがなく、<証拠>によると、原告がその主張する本件傷害を受けたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
二<証拠>を綜合すると、
1 訴外林は、自動車二台を持ち、運転者二名を雇い、土建業を営む者であるところ、昭和四三年九月下旬頃鳥取県八頭郡用瀬町鷹狩地内で訴外光和建設の電話線埋設工事の下請けをし、堀起した残土を取除く等の仕事をしており、原告も右と同現場で「堀り方」の仕事をしていたものであるところ、たまたま同年九月二七日訴外林の雇傭していた運転者が頭痛を理由に休んだため、当日は右林も仕事を休むかどうかについて迷つていたところ、原告が同日午前六時頃自動車で来て、右林に「残土の始末をしてくれなくては私の方の仕事ができない。休んでもらつては困る。」旨を述べ、右林も仕事をすることに決した。
そこで右林は、運転免許を得ていなかつたが、訴外林車を運転して前記工事現場に行くこととし、右原告(及び訴外林誠一)を助手席に乗せ、同日午前六時三〇分頃右林方を出発し、同日午前六時五〇分項本件事故現場を走行していたものであること、
一方、本件被告車は、同郡河原町北村地内の山林から「ブナ材」を満載して被告会社に運搬すべく鳥取市倭文方向に向つて走行していたものであること、
2 本件事故現場附近は、訴外林車から見て左にカーブし(本件被告車からは右にカーブする)、右林車からすると少し昇り坂になつており、人家や庭木等のため見通しの非常に悪いところであること。本件事故は、午前六時五〇分頃で交通量は極めて少く、訴外林車は時速約四〇キロメートルで、本件被告車は時速約三五ないし四〇キロメートルで、それぞれ対向車を意識することなく進行していたところ、本件事故発生地点の手前で、訴外林車は前方約三三メートルの地点に本件被告車を、本件被告車(運転者塚本)も亦前方約三三メートルの地点に訴外林車を、それぞれ認めた。
そこで本件被告車は急ブレーキをかけてハンドルを左に切つたが、訴外林車は急ブレーキをかけたまま直進し、アスファルト道路が降雨で漏れていた関係もあつて、それぞれスリップ(本件被告車は約八ないし一四メール、訴外林車は約一三ないし一五メートルそれぞれスリップした)しながら右林車の前部が右被告車の右前部に衝突し、原告を含む右林車の三名と、右被告車の運転者塚本がいずれも傷害を受け、その中で原告が最も重い前記の本件傷害を受けたものであること、
3 右道路の巾員は約六メートルでアスファルト舗装されており、仮に訴外林車が急停車の措置をとると共にハンドルを左に切つておれば衝突を避け得た可能性も否定できず、その場合仮に雨でスリップして衝突したとしても、その程度は本件事故に比し軽いものであつたと推測されること、
4 原告は、訴外林が運転免許を得るため自動車学校に通つたが、遂に運転免許を取得しえなかつたことを知悉しており、したがつて、右林が自動車の運転をなし得ないこと及び若干かくれて無免許のまま運転したことがあるとしても、それは未熟であり危険であることを十分承知しながら訴外林車に乗車したものであること、
以上の事実が認められる。<証拠判断省略>
三そこで原告主張の損害について判断する。
1 <証拠>を綜合すると、
(一) 原告は、本件傷害により昭和四三年九月二七日鳥取赤十字病院に入院し、同年一二月二九日一応退院したが、右下腿骨の骨折は複雑骨折で、その後も長期間(約二一〇日〔但し治療実日数七日〕)通院していたところ、骨髄炎を併発し、昭和四四年七月二八日再度鳥取赤十字病院に入院し、同年八月九日退院したが、その後も暫らしく通院して治療を受けたこと、
(二) 昭和四四年八月一六日現在における原告の本件傷害による後遺症としては、鳥取赤十字病院の上山医師による診断書(甲第八号証によると、「後遺症は殆んどなし(母趾背屈障害あり)」とされており、また、鑑定人上平用(鳥取大学医学部助教授)の鑑定書(昭和四七年一二月二五日付)によると、「自覚的に右下腿(骨折部附近)から右足背にかけ違和感、シビレ感、脱力感などの後遺症を訴える。これらの症状は諸検査の結果、右腓骨神経の切断など高度な神経障害によるものではなく、右腓骨神経不全麻痺の後遺症として、その支配筋(前脛骨筋、長母趾伸筋など)の筋力が低下したためと考えられる。」とし、右後遺症による労働能力喪失率は五パーセント程度が妥当である旨判定されていること、
(三) 原告は、本件事故当時有限会社ワールド重機建設の代表者兼職員として、少くとも一ケ月金六万円の収入を得ていたこと、
が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
2 右認定事実からすると、
(一) 原告は、本件傷害により少くとも一〇ケ月間休業し、その間の休業損失として金六〇万円(一ケ月金六万円の一〇ケ月分)が、また、入院雑費として金二万七〇〇〇円が、それぞれ認められ、
(二) 後遺症による逸失利益としては、前記認定事実からすると、労働能力喪失率は五パーセントで、この状態は昭和四四年八月から一〇年間継続すると認めるのが相当であるところ(原告が、本件傷害の治療を概ね終えたのは同年七月頃で、それまでは前記のとおり休業損失が認められる)、原告の収入は一ケ月金六万円であるから、その五パーセントは金三〇〇〇円で、原告が本訴請求で主張する遅延損害金の起算日は昭和四五年七月であるので、それまでの一年分は金三万六〇〇〇円となり、その後の九年分については金三万六〇〇〇円に対しホフマン式係数7.2782を乗ずると金二六万二〇一五円(円未満切捨て)となるから、右の計金二九万八〇一五円が後遺症による逸失利益としての損害となる。
(三) 慰藉料としては、前記認定の傷害の程度等諸般の事情を併せ考えると、原告が本件傷害及び後遺症により被つた精神的苦痛を慰藉するには金一五〇万円をもつて相当と認める。
3 したがつて、原告の被つた損害は計金二四二万五〇一五円となる。
四ところで、前記認定の本件事故の発生及びこれにより原告の受けた本件傷害(及び後遺症)について、原告、訴外林及び被告(運転者塚本)について、その間の関係を考察するに、右の事故及び傷害に対する過失割合は、認定事実から判断すると、訴外林に少くとも六割、訴外塚本に多くとも四割、と認めるのが相当であるところ、右林は本件訴訟の当事者となつていないので、本件では原告と被告間で判断せざるを得ないが、前記のとおり原告は、訴外林が無免許であること、したがつて運転技術の未熟であることを知悉しながら、「残土の始末をしてくれなくては私の方の仕事ができない。休んでもらつては困る。」と申向けて訴外林の無免許運転を間接的に促し、同人の運転する訴外林車に同乗したもので、右は法秩序違反並びに未熟に伴う危険を原告自ら承認した行為といわなければならない。
かかる場合、原告の右の如き行為をどのように評価すべきかについては、見解の分れるところであるが、公平の観念に照し、訴外林車の運行供用者責任の一部を原告自ら負うべきものであると解するのが相当である。
そうすると、本件の場合、被告に対する関係で原告自ら負うべき責任割合は三割と認めるのが相当である。したがつて、被告に対して主張しうべき原告の損害は、前記の金二四二万五〇一五円から右の割合による金七二万七五〇四円(円未満切捨て)を控除した金一六九万七五一一円となる。
五被告は、「原告は自賠責保険金一〇六万五〇三四円を受取つているから、右の金額は原告の本訴請求から控除さるべきである。」旨主張する。そして、原告が被告の主張する自賠責保険金一〇六万五〇三四円を受取つたことは当事者間に争いがなく、したがつて、右の限度で原告の損害はてん補されたことになるから、前記の金一六九万七五一一円からこれを控除すると金六三万二四七七円となる。
六以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し金六三万二四七七円及びこれに対する昭和四五年七月一一日(本件訴状送達の翌日)以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で正当として認容すべきも、その余は理由がなく棄却を免れない。
よつて民訴法第九二条、第八九条、第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。 (矢代利則)